ビートルズ特集


Beatles For Sale (1964)

楽曲紹介[1]

"No Reply"

 イントロなしでいきなりスタートするジョンのボーカルによってアルバムの幕が開ける。ジョンの歌声は、表面 的にはアグレッシブにも感じられるが、前作までのエネルギーを炸裂させるかのようなロック・ボーカルとは明らかに異なり、自らの内側に力を秘めるような静なる力強さともいうべきものを感じさせる。

 これに呼応するかのように前作までのプレイと大きな違いを見せるのは、ドラムスとギターを中心とするリズム・トラックである。リズム・ギター、ドラムスのいずれもが、ややラテン風の響きを感じさせる特徴あるリズムを刻むのだが、勢いを重視した前作と比較して、高音部を押さえ気味にした味のあるリズム・トラックへ変貌している。この曲に限らず本作のオリジナル・ナンバー全体を通 して言えることだが、これまで高音域をカバーするために用いられていたシンバルが、本作においてはほとんどその存在を感じさせないほどにその活動域を狭められている。本作におけるこれらの変化が、いずれも偶然に引き起こされたものとは考え難いのである。

 ジョンのダブルトラック・ボーカルでスタートした曲は、ポールのコーラスが加わるミドル・パートにおいて最大の盛り上がりを迎える。この部分だけで用いられるハンド・クラップと、主題部分とは異なる動きを見せるリズム・ギターによってクライマックスへ導かれるプロセスは見事である。その後、再びジョンのボーカルによる主題部分へ帰るのだが、この「静」から「動」、そして再び「動」から「静」へ戻る一連の構成は、歌詞が伝えるドラマ性と相俟って聴き手の心を強く揺り動かす。

 オープニング・ナンバーがそのアルバム全体の個性を象徴するというビートルズの不文律は、本作においてもしっかり守られている。"No Reply" は、ビートルズの創作姿勢がすでに新たな次元へ踏み込んだことを示すうえで十分な作品と言えよう。

"I'm A Loser"

 作者であるジョン・レノン自身が、ボブ・ディラン (25) の影響を受けて作曲したことを認めた作品。ジョン・ロバートソン著「ビートルズ全曲解説」は、この曲について「自分を特定のシチュエーションに当てはめるのではなく、自分自身に対して抱いている思いを表現した初めての曲」とのジョン・レノンの発言を紹介している。この曲は、聴き手と関係なく自らの思想や感情を音楽という媒体を通 して表現することでファンの共感を集めていくジョンと、万人を楽しませるための音楽を創り続けるポールというビートルズの両輪の原型を生み出した最初のナンバーと言えるのかもしれない。 

 曲の構成としては、ジョンのボーカルをポールのベースとリンゴのドラムスが支えながら、リズム・ギターが展開に応じた味付けを加えるオーソドックスなものと言える。ただし、リズム・トラックが前面 に出るミドル・パートから、一転してベース主体の主題部分へ帰る時の「動」から「静」へのドラマチックな展開は、"No Reply" と同様、本作における特徴の一つと考えられる。

"Baby's In Black"

 ジョンとポールの共作による作品。イントロで使用されるドロンとしたエレクトリック・ギターが、曲全体の雰囲気を象徴している。ジョ−ジ・ハリスンのギターが、これほどの黒い響きを聴かせたことはかつて無かったように思われる。イントロと同じギター・フレーズは、曲中の節目のみならずエンディングでも使用され、曲全体の統一感を打ち出すうえで大きな役割を果たしている。

 また、8分の12拍子というビートルズとしてはかなり珍しいリズムを採用しているのだが、曲全体の印象としては、リズムの深いヘヴィなワルツといったところであろうか。ジョージのギター・プレイも加え、いずれの面 からも、黒人音楽からの影響を強く感じさせるナンバーである。

"I'll Follow The Sun"

 ポールが16歳ころに作曲したと言われるフォーク調の作品。ボーカルもポールがメイン・パートを取り、ジョンがコーラスに加わっている。ポールのシングル・トラックでの呼びかけに応えるように、ジョンが繰り返しハーモニーをかぶせるミドル・パートは、この曲の最大の聴かせどころと言えるほどに美しい。全体的にシンプルなアレンジだが、間奏のギター・ソロと思わせておいてそのままボーカル・パートへ引き継がれる意外性など、いかにもビートルズらしいアイディアが隠されている。

 

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